GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

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Vol.99

実効性のあるグローバル教育と英語教育を通し、グローバルマインドをもった自律的学習者を育てる

高槻中学校・高等学校 様

高槻中学校・高等学校 様

1940(昭和15)年創設の旧制・高槻中学校にはじまり、1948(昭和23)年の学制改革以降は中高一貫教育を展開。建学の精神である「国家・社会を担う人物の育成」の具現化に努めている。2014(平成26)年度から5年間、文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定され、2015年度にはスーパーグローバルハイスクール(SGH)アソシエイトとして探求型学習に取り組んでいる。2014年に学校法人大阪医科大と法人合併し、高大連携を強く意識した教育活動を展開している。また、2017年度の中学1年生から女子生徒を受け入れ、共学化する予定である。

基本情報
私立、男子校、普通科
規模
1学年約260名
主な進路
国公立大は、東京大3名、京都大18名、大阪大23名、神戸大16名、医学部医学科20名をはじめ166名(2015年度入試/現浪計)

取り組みのポイント

  • 新たなスクールミッションを制定し、あらゆる教育活動をその内容に収斂させる形で学校改革を推進。
  • 英語教育改革とともに、中学1年生から高校2年生まで、ベルリッツ講師による英会話の授業を導入し、英語運用力とグローバルな資質を高める。
  • グローバル教育を通し、英語学習の目的意識と進路意識を高め、自律した学習者を育てる。

取り組みの背景

 70余年の歴史を誇り、府内でも指折りの進学校として地域からの信頼の厚い高槻中学校・高校。長年、安定した進学実績を残してきたが、近年は近隣校の躍進を受け、相対的に競争力がじりじりと低下する傾向にあった。
 こうした状況を打破するべく、2010年の岩井一学校長の就任を機に学校改革に着手した。その先駆けとなったのが、スクールミッションの制定だ。学校全体で社会環境の変化を見据えて今後の学校の在り方を議論し、卓越した語学力や国際的な視野を持ち、世界を舞台に活躍できる次世代のリーダー育成を使命とするという思いを込め、「Developing Future Leaders With A Global Mindset」というミッションを作り上げた。工藤剛教頭は、「あらゆる教育活動をスクールミッションに収斂させるという共通認識を持って改革を推進し、学校としての特色を鮮明にしていきたいと考えています」と語る。

取り組みの詳細

インテイクを増やすことでアウトプットの力を伸ばす英語教育改革に着手

 同校が最初に動き出したのは、英語教育改革だ。2012年度から英語教育顧問として東京学芸大の金谷憲名誉教授を招き、全ての英語教師の授業を見学してもらって指導を受けている。現在は、中学校の導入期から英語の運用力を伸ばすという方向性で授業研究を進めている。
 その一環として、中学校では中高一貫校向けの難度の高い教科書から、標準的な検定教科書に変更した。英語科主任の滝藤博史教諭はその狙いを、「アウトプットの力を伸ばしたいと考えました。そのためには、繰り返し素材に触れることで英文を自分のものにする必要があります。そこで、生徒が扱いやすいレベルの教科書を使い、音読や暗唱を中心に英文を繰り返し体に染み込ませ、インテイクを増やします。標準レベルの内容がしっかりと自分のものになれば、難度の高い教材もすんなりと理解できるでしょう」と説明する。
 また、生徒の英語学習への意欲を高める目的で、中1生を対象に9月に「英語暗唱コンテスト」を行い、夏休みを活用して暗唱課題に取り組ませている。さらに、自ら英文を作り出す力を伸ばすため、中1担当の加藤廣太教諭の授業では、絵とキーワードだけを用いて、教科書の内容をペアの生徒に伝えるリテリングの活動や、リテリングの際に言ったことを最低10文以上書くライティング課題を取り入れている(資料1)。中2でも、藤田和也教諭、野村聡一教諭、木村升治講師の3教員がタッグを組んで、9月に「英語スピーチコンテスト」を行い、学年全体のアウトプットへの意欲向上を図っている。今後は、英語運用力に軸足を置いて高校の授業の研究にも広げていく考えだ。

【資料1】英語授業資料(Picture Telling)

正課に「英会話」の時間を導入し、実践的な英語力とグローバルな資質を高める

 英語教育改革にあたり、同校は「ネイティブ講師による指導」も重視した。既に2011年度からベルリッツと提携し、放課後に希望制講習を実施していたが、これを2012年度より正課の「英会話」の授業とした。正式にカリキュラムに組み入れることで、さらなる指導の充実や、生徒の意欲向上を狙った。現在は、中学1年~3年生は週3時間、高校1・2年生は1時間(高校2年生は後述の「GLコース」のみ)にまで時間数を増やしている。
 「英会話」の授業を大幅に増加した背景には、本格的な語学力向上に対する期待に加え、スクールミッションとベルリッツの指導方針との方向性が合致していたことが大きい。「ベルリッツの教材『Time Zones』は、人種や文化的背景が異なる様々な登場人物が出てくるなど、語学力だけではない異文化理解や多様性の受容といったグローバルな視点で作成されています。世界を舞台に活躍する人材を育てる本校の教育活動の狙いと非常にマッチすると感じました」(滝藤主任)。
 また、実際の指導においては、単に語学力を高めるだけでなく、論理的・批判的思考力や表現力を伸ばすという観点でも、独自の指導ノウハウが確立されていることの強みを感じているという。
 こうしたリソースをより活用するため、2015年度から月1回、ベルリッツ講師陣と各学年の英語教師による連絡会議を実施するようになった(資料2)。そこでは生徒指導上の情報交換に加え、日本人教師の授業との関連性を高める指導について協議している。現状、中学校は週8時間の英語の授業のうち、3時間を「英会話」に充てる。近いうちに「英会話」の1時間は、他の英語の授業で学んだ内容をアウトプットする時間にする方針だ。「次のステージとして、ベルリッツの講師とのコラボレーションを強めて、英会話以外の授業でも英語運用力をより高めていきたい。生徒にとってはアウトプットする場があることで、普段の授業に対する意識や意欲が大きく向上するはずです」(工藤教頭)。
 さらに、ベルリッツとの提携による取り組みとして、2013年よりベルリッツのランゲージセンターにおいて、年1回、中学1年生を対象に「英語道場」という集中講座も導入した。これは、1クラスが8グループに分かれ、5人程度のグループごとに外国人講師が待機する小部屋を訪れ、ゲームなどを取り入れたレッスンを受けるという講座だ。1レッスン40分で、朝から夕方まで異なる講師から8レッスンを受け、文字通り英語漬けの1日を過ごす。全レッスン終了後には、レーダーチャートでパフォーマンスを評価するシート(資料3)を1人ひとりに渡す。1学年6クラスのため、この講座を6日間にわたって実施している。

【資料2】ベルリッツ・英語科 情報交換・連絡会

【資料3】 「英語道場」のパフォーマンス・シート(例)

スクールミッション実現に向けグローバル教育の「見える化」を図る

 スクールミッションの具現化に向けた柱の一つが、グローバル教育の充実化である。その司令塔として、2013年、進路指導部や生徒指導部などと同列の主要校務分掌として「国際教育部」を設置した。部長の工藤教頭を含め、8人の教師が在籍する。国際教育部では、グローバル教育がお題目に終わらないように、体系的なプログラムを構築し、「グローバル教育の見える化」に取り組んでいる。
 グローバル教育を推進する上では、英語教育とのリンクを強く意識している。「英語教育を通して4技能の向上に取り組むだけでは、生徒の目標は『GTECのスコアを高める』といったものに留まるでしょう。しかし、本校のグローバル教育は『英語で学ぶ』機会を設定し、『○○を学びたい。そのために英語力を高めたい』といったより高次の目的意識を持たせたいと考えています。そうした目的意識があれば、生徒はいわば自走式に英語を習得しようとするでしょう。つまり、英語学習の目的を明確化するという役割において、グローバル教育はいわば英語教育からキャリア教育への仲立ちとなると捉えているのです」(工藤教頭)。

海外研修プログラムで英語学習の目的意識を明確化

 グローバル教育の柱の一つが海外研修プログラムだ。
 参加者が最も多い「次世代リーダー養成プログラム」は、高校1・2年生がオックスフォード大とケンブリッジ大を約10日間訪問するプログラムで、第4回の2015年度は高1生31人が参加した。英語レッスンのほか、医学やビジネスに関するレクチャー、さらには現地の大学生チューターとのディスカッションや個人プレゼンテーションなどを通して知的刺激を与え、その後の英語学習や進路における目的意識を明確化することを狙う。
 さらに、北米の大学(UCLA、ワシントン大学)で英語研修とホームステイを行う「次世代リーダー養成プログラム・プレコース」(2015年度は中3生24人、高1生5人が参加)、カナダ、アメリカへの10週間の短期留学「中3・短期留学プログラム」(2015年度は中3生14人が参加予定)がある。「中高一貫校においては、高校受験がない中学3年生に対し、いかに貴重な経験をさせてアドバンテージを取らせるかという視点からプログラムを構築しています。生徒に対しても、この時期に自分が何を経験するべきかをよく考えるように伝えています」(滝藤主任)。
 2015年度は、中学3年生の約6分の1にあたる38人が海外研修を経験することになる。帰国した生徒が持ち帰ってくるものは、他の生徒にとっても大きな刺激になるに違いない。

発展途上国の研究者の講演から学ぶ意義や目的を見つけさせる

 「英語で学ぶ」機会をより充実させるため、2014年度には大幅なカリキュラム改編を行った。生徒は中学3年生から、「GL(グローバルリーダー)」「GS(グローバルサイエンス)」「GA(グローバルアドバンスト)」の3コースに分かれる。
 GLコースでは、基本的に従来のカリキュラムに基づいた教育活動を展開する。一方、GSコースでは、グローバルマインドを備えた生命科学系のリーダーの育成を目指し、大阪医科大との連携を生かして、SSHのプロジェクトに取り組む。科学英語の学習や「海外サイエンスキャンプ」などを通し、グローバルな視野や態度を育てることにも重点を置く。
 GAコースではSGHアソシエイトとして、グローバルヘルス向上を目指す次世代リーダーの育成を目指す。そのため、英語の授業では、英語運用力やプレゼン力、また時事英語に重点を置いた学習も展開する。さらに、グローバルヘルス向上への国際的な取り組みを学ばせるため、半年にわたってスタンフォード大学国際異文化教育プログラム(the Stanford Program on International and Cross-Cultural Education)と共同開設するリアルタイムのオンライン講座の導入や、「総合的な学習の時間」には、京大・阪大・神戸大との高大連携を活かし、様々な国から来日し大学院で学ぶ若手研究者を順次招いてグローバルヘルスに関する英語でのセミナーやワークショップを開設するなど、英語で学び、考えを述べる機会を数多く設けている。「国の未来を背負って来日し、高い志を持って研究する講師の熱い思いに触れることで、生徒に学ぶことの意義を感じ取らせて、高い目標につなげたいと考えています」(工藤教頭)。

取り組みの成果と今後に向けて

 前述の「次世代リーダー養成プログラム」は、生徒に刺激を与えることが目的とあって、スケジュール的にも内容的にもかなりハードだ。これまで参加した生徒は疲れ果てている様子が散見されたが、中学1年生の時からベルリッツの英会話の授業を受けている2015年度の高校1年生は、気持ちに余裕を持って楽しんでいる姿が見られ、コミュニケーションのレベルも非常に高かった。GTEC for STUDENTSのスコアを見ると、過年度と比べリスニングのスコアが大きく伸びていた。
 また、北米へのプレコースでホームステイを経験した中学3年生の帰国後のアンケートには高槻の授業を「ある程度マスターすれば、日常会話では、通用します。アメリカでも生活できそうと思えた」と記入されていた。入学するまで英語を学んだことがない生徒だったこともあり、教師たちは英語教育の改革に大きな手応えを感じている。
 今後も英語運用力と並行し、「英語で学ぶ」機会を増やすことで、「英語が使えるようになったから、○○が分かった。○○ができるようになった」と自然と口にするような生徒を育てたいと考えている。
 スーパーグローバル大学をはじめ、既に動き始めた大学教育改革、大学入試改革の動きを踏まえると、同校が推進する英語教育やグローバル教育の改革は、受験対応力と相反するどころか、大きなプラスになると捉えている。同校は、進路の保証はもちろん、次世代を見据えた英語教育、グローバル教育を通して、長い目で生徒の成長を促し、生徒の将来への可能性を広げることで保護者や地域からの信頼を高めていく考えだ。