GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

全国各地の先進的なお取り組みや、身近なご指導事例など、生徒の英語力を高めるためのヒントをご提供します。

Vol.80

地域が一体となった小中高連携の取り組み
~七尾市における英語力把握と指導改善~

「互見授業」にとどまらない小中高連携

全国的に、地域の教育力向上のための「小中高連携」が、教育現場のテーマとして取り上げられることが多くなっているが、特に進んだ取り組みを行っているのが、能登半島の中央に位置する七尾市である。
七尾市では、地域の進学校である石川県立七尾高等学校が安定した進学実績(平成23年度卒業生で、東京大1名、京都大4名、大阪大7名、名古屋大8名など国公立大146名)を誇り、信頼を得ている。少子化が進むこの地域において、より多くの生徒の力を最大限に引き出し、ひいては国際的に活躍できる人材を育成するため、七尾高校では文部科学省スーパー・サイエンス・ハイスクールに指定され、文系フロンティアコースを設置するなど、教育内容のさらなる充実に力を入れている。
そのようななか、今回は七尾市が特に弱点ととらえている「英語」において、単なる「互見授業」にとどまらない小中高連携の取り組みを推進した七尾市の先生方にお話を伺った。

高校3年間だけでなく、中高6年間で英語力を伸ばす

右図の通り、七尾高校においては、全国平均と比較しても例年大きなGTECスコアの伸びを記録しており、英語力を安定的に伸ばしている。
しかし、国語や数学などの他教科に比べると、入学時の英語の学力は相対的に低いと考えられている。このことから、中高が密に連携することにより、中高6年間トータルで英語力を伸ばしていこうと、七尾高校と七尾市内の小中学校の管理職教員と、七尾市教育委員会が中心となり、今回の取り組みがスタートした。
その内容は、まず同じ物差しで英語力の現状を把握し、同時に小中学生の学習意識・学習習慣をチェックすることから、指導のあり方を建設的に見直していこうというものである。

七尾高校におけるGTECスコア推移

七尾高校の取り組みと、中高連携への思い

七尾市における小中高連携で、大きな役割を担っているのが、地域の拠点校である七尾高等学校だ。高校側から積極的に連携を推し進める七尾高校の山本登紀男校長先生に、今回の小中高連携の取り組みについて、その背景を伺った。

山本校長インタビュー

「少子高齢社会」だからこそ、小中高12年間で最大限に子どもの力を引き上げる

Q 七尾市は英語に限らず小中高連携が盛んに行われていますが、その背景は何でしょうか。
山本校長 七尾市で小中高連携を行っているのは、この地域の少子高齢化が急速に進展していることが背景にあります。少子高齢化というより、もはや「少子高齢社会」になっていると言ってもよいでしょう。そのような現状において、この地域を活性化させる人材を、一人でも多く育てたい。小中高それぞれがバラバラに教育を行うのではなく、小中高トータルの12年間を通じて、最大限に子どもたちの力を引き上げていかなければならないと考えています。

年間延べ100回以上の中学校訪問で、高校がめざす教育のあり方を伝える

Q 七尾市のみならず、全国的にも少子高齢化が進む地域は多いですね。
山本校長 そうです。だからこそ、まさに今私たちが取り組んでいることは、いずれ日本全国の多くの地域で実践されることになると感じています。七尾市のような状況にある市町村は、全国に存在するわけですから、私たちと同じように地域でしっかりと連携して、子どもたちを育てていくことが必要になってくるでしょう。私が初めてこの学校に赴任した昭和62年当時は、中学校に訪問することはほぼ皆無でした。それが現在では、年間で延べ100回以上は中学校に訪問し、七尾高校がめざす教育のあり方を中学校の生徒・保護者・先生方に伝えています。地域のなかで、しっかりと高校がやっていることを伝える必要があると強く感じるからです。
七尾高等学校 山本登紀男校長先生

七尾高等学校 山本登紀男校長先生

「英語を使える力」と「受験を突破する英語力」の両方をつける

Q 特に、今回英語という教科において、新たな取り組みを進められたのはなぜでしょうか。
山本校長 これは全国的な傾向なのではないかと思いますが、都市部と地方部の学力差が大きい教科は英語だと感じています。実際に本校でも、他教科に比べて英語で苦戦する生徒が多く、最も強化が必要だと考えています。
Q 七尾高校では、生徒にどのような英語力をつけさせたいとお考えでしょうか。
山本校長 「英語を使える力」をつけることと、「受験を突破する英語力」をつけることが、二者択一のように語られることがありますが、私は両方の力をつけることは可能だと思っています。大学に入れることだけがゴールなら、受験英語だけでよいかもしれません。しかし私は、受験は人間を磨く「手段」ではあるが、それ自体がゴールではないと考えていますので、生徒には卒業した後も「英語を使える力」を身につけさせたいと思っています。

「目標管理型」で、つけさせたい力から逆算して指導を組み立てる

Q 七尾高校における指導のコンセプトを教えてください。
山本校長 英語に限りませんが、本校での指導の進め方は「目標管理型」で、このようなプロセスで指導を組み立てています。しっかりと現状を分析して課題を整理した上で目標を立て、その目標とする力をつけるために指導した結果、生徒の学力がどう変化したのかを検証する、という流れです。
Q 「目標管理型」のメリットは何でしょうか。
山本校長 「目標管理型」の方が、明らかに指導に一貫性を持たせることができます。何か結果が出るたびに、あれこれその場しのぎのやり方を繰り返してしまうと、指導に一貫性がなくなってしまいます。また、目標から逆算していくスタイルの方が、結果的に忙しさも回避できると思います。教育現場は往々にして「積み上げ型」になることがありますが、「あれこれ指導したが、結局は生徒がついてこれなかった」という言い訳が出てしまいがちです。そうではなくて、「どういう力をつけるために、今どういう指導をすべきか」を、逆算型で考えるべきなのです。

早期に課題に気づくためにも外部試験を有効活用する

Q 今回のように中学校で外部試験を受けることのメリットは何でしょうか。
山本校長 外部試験を受けることのメリットは、早期に指導上の課題を見つけやすいということです。現在、地域の中学校では、ベテランの先生方が退職される一方で、若手の先生が増えています。ただ、一つ一つの学校の規模が小さいため、教科担任が一人だけという学校も多くあります。どんな先生でも、一生懸命指導していても何かしら改善すべき課題点があるはずですが、学校のなかだけ、あるいは地域のなかだけではその課題点に気づきにくいのです。だからこそ、外部試験を受ける価値があると思います。

生徒の心に火をつけ、能登から国際的に活躍する人材を育成する

Q 校長先生が考える「育てたい人材像」について教えてください。
山本校長 本校では、平成16年度からSSHの指定を受け様々な取り組みを進めています。また、今年度からは「文系フロンティアコース」を立ち上げ、「国際的に活躍できる人材」を育成することを大きな目標に掲げています。英語においても、English Speech Festivalという取り組みを行っており、以前には「七尾地域を活性化させるためにはどうすればよいか」をテーマに、英語で発表、英語で質問、英語で討論を行いました。生徒たちはこういった行事にもとても積極的に参加します。私はこれまでに、生徒たちの心に火がつき、意欲がわいてくれば、教員が教えるより何倍もの力をつけるという姿を多く見てきました。ですから、学校として大事なことは、生徒に火をつけるためのしかけをいかにつくるかということです。この能登という地域はとても教育力が高く、地域の方々も先生方も誠実で一生懸命、労を惜しまない人ばかりです。だからこそ、どんどん外の世界に飛びだし、国際的に活躍したり、またこの地域に戻って地域を活性化させるような人材を育成したいと思っています。

黒崎直人校長、清水穰校長、渡辺芳昭課長インタビュー

七尾高校 山本校長の思いに、七尾市の中学校と教育委員会はどのように応えたのか。
七尾市立御祓(みそぎ)中学校 黒崎直人校長、七尾市立中島中学校 清水穰校長、七尾市教育委員会 渡辺芳昭課長にお話を伺った。

中高連携を通じて「英語が弱点」と知り、
市全体として中学の英語力把握を行うことに

Q 七尾市において、特に英語で中高連携を進めていくことになった経緯について教えてください。
渡部課長 もともと中高の連携は積極的に行っていましたが、きっかけとなったのは、高校における教科学力のデータを見たことですね。
七尾高校の山本校長先生は、生徒の英語力を引き上げるには中学と高校がそれぞれ協力し合う必要があるという問題意識をお持ちでした。それならば、まずは中学と高校で同じものさしを使って、英語力の変化を丁寧に追っていこうという話になりました。
中学全体で英語力を把握するこの取り組みは、今年度は校長会が主体となって実施していますが、来年度は七尾市教育委員会が行っていく予定です。
黒崎校長 七尾高校における教科学力のデータを見たとき、私は自分が井の中の蛙だったとショックを受けました。高校のように詳細なデータで学力の到達度を見る機会が中学校では少ないですから、ハッキリと英語が弱点だと知って、中学としても英語をどうにかしないといけないと思いました。
今年度、私は七尾市の校長会で学力向上の担当になっていることもあり、これは御祓中だけではなく、七尾市全体の問題だと捉えて、清水校長先生はじめ他校の校長先生や市教委の渡辺課長にも声をかけさせてもらったのです。
七尾市教育委員会 学校教育課 渡辺芳昭課長

七尾市教育委員会 学校教育課 渡辺芳昭課長

中島中学校 清水穰校長先生

中島中学校 清水穰校長先生

清水校長 中高連携の一環で、七尾高校が中学生向けに学校説明会を行ってくれるのですが、その際に高校生から中学生へのメッセージとして、「もっと中学校のうちに、しっかり英語を勉強してきてください」と言ったことも大きなきっかけでした。
出てくる生徒たちが異口同音に、「高校で一番困るのは英語だ」というのです。例えば、中学では聞くことと話すことを中心に授業を組み立ててきていますが、高校ではそれだけでなく、 書くことや読むこともバランスよく求められます。当然といえば当然の壁ですが、中学校の先生たちとしては、中学でもっと自信をつけさせてあげたいと思いました。それが今回の取り組みの発端と言ってもいいかもしれないですね。

高校でも活用されているGTECで中高の英語力測定のものさしをそろえる

Q GTECを使って英語力を把握することになったのはなぜでしょうか?
黒崎校長 これまでも研究授業や学校見学で七尾高校と互見授業のような交流は行っており、次の策を検討しているときに七尾高校からGTECを紹介されました。中学と高校が、GTECという同じものさしを使えば、中学から高校へスムーズに指導をつなげられると思い、採用しました。
清水校長 GTECが高校での採用が多いこともメリットですね。子どもたちが「自分はこういう英語力があります」と自分で表現するのは難しいことです。しかし、高校に行ったときに自分のGTECのスコアを伝えることができれば、高校の先生も生徒の英語力を把握でき、個別の指導がしやすくなるのではないでしょうか。高校の英語は中学校とレベルが違うので壁に突き当たる生徒が多いのですが、そういうことができれば本当に子どもにとっていいことだな、と考えたわけです。

生徒はWritingで「通じた喜び」を実感
スコアの伸びで成長を感じやすい

Q GTECの受検は2012年が初年度になりますが、先生や生徒の反応はどうでしょうか。
清水校長 生徒にとっては、Writingがとても刺激になっています。「自分で書いたことが採点者に通じた!」という喜びを感じるようですね。その様子を見ている先生方も、生徒たちの様子をうれしく捉えています。
黒崎校長 これは全教科を通じてですが、御祓中では「書きまとめる力」の育成を今年度のテーマとして取り入れています。英語でも、書かせる機会は先生方がかなり意識して取り入れています。その成果だと思いますが、Writingのスコアはとても高いですし、2回目の受検では白紙答案も減りました。
清水校長 生徒にとっては、Writing答案を海外で採点してもらっていることが大きなモチベーションにつながっています。自分の書いたものが、稚拙だとは思いつつ相手に伝わっていることがうれしいようですね。生徒たちはもともとWritingには苦手意識を持っていたようでしたが、GTEC以外の実力テストや県のテストのライティングの問題でも、生徒の白紙答案が減ってきました。
黒崎校長 GTECはスコア型のテストですから、スコアが上がっているのを見ると、生徒はもちろん、先生も「やったー!」という充実感、満足感がものすごくあるようですね。「この子がこんなに上がったんです」と結果を見せに来てくれた先生もいました。もともと英語力の高い生徒だけでなく、伸びが大きな生徒をほめてあげることができるということは、生徒のモチベーションアップにつながってすごくいいですね。

中高連携はゴールではない
高校に進学しても、スムーズに学べるようにしていくことが目的

Q 中高連携のゴールをどうお考えですか?
黒崎校長 中高連携をすること自体がゴールではありません。子どもたちが高校にいってもスムーズに学べるようにすることが、中高連携の目的です。私たちにとっては、中学校を卒業させたらそれで終わりではありません。子どもたちが中学校で培ったことをもとに、高校でも社会に出ても活躍している姿を見たいと思っています。そのためには、中学と高校で、教科のつながりをきちんとつくること、先生たちの連絡が定期的になされること、先生も生徒も行き来することが必要だと考えています。
清水校長 中高連携を進めることによって、子どもたちが進学するすべての高校で、七尾高校と同じように中高6年間で英語力を伸ばしていこうと考えてくれたらいいなと思っています。そうすれば子どもたちはどこに行っても自分の英語力を次の指導者にわかってもらえて、伸びていける、ということですから。
黒崎校長 私自身は英語教員ではありませんし、英語をしゃべりたくても単語が十分に出てきません。英語はやはり使ってこそだと思います。子どもたちには高校受験のためだけでなく、将来仕事で英語が使えるような力が身につく勉強をさせたい。グローバルな社会で自信を持って生きていける子どもたちを育てたいと思っています。
御祓中学校 黒崎直人校長先生

御祓中学校 黒崎直人校長先生

七尾市立御祓(みそぎ)中学校英語科 先生インタビュー

七尾市内の6校の中学校の中でも、特にWritingのスコアが高い御祓中学校の英語科の先生に、指導の内容について伺った。

猪苗代町立東中学校 様

毎週の「英作文ノート」で、日常的に「書く」活動を多く取り入れる

Q 御祓中では、特にWritingのスコアが安定して高いですが、Writingの指導内容について教えてください。
先生 御祓中では、石川県の事業で、今年度から「書きまとめる活動」をテーマとした取り組みを、全教科でスタートさせています。そこで、英語科としても書かせる活動を今年度から多く取り入れました。まずは、書くことに対する抵抗をなくすことを目標とし、毎週まとまった量の英文を書かせる指導を取り入れています。2、3年生では単元の終わりに既習の表現を用いたWriting活動をしています。
Q 書かせる活動の内容について、具体的に教えていただけますか。
先生 今年から活用しているのは、B5判のノートを横半分に切った「英作文ノート」です。はじめは日記からスタートし、なるべく生徒たちに身近なテーマで自分の思ったことを書かせるという課題を週末に出しています。生徒たちは見開きの左ページに自分の書きたいことを書いて提出します。それを、ALTの先生と日本人の先生とでチェックし、コメントをつけて返します。生徒は、そのチェックやコメントを見て、次回の提出時に見開きの右ページに書きなおして提出をすることになります。

「書くこと」に対する抵抗はなくなり、積極的に取り組むようになった

Q 生徒さんの変化の様子はどうでしょうか。
先生 書くことに対する抵抗が明らかになくなりましたね。以前は、「今日は書くよ」と言うと、生徒は「えー!」と言っていましたが、今年は「今日も書くんだ」と言いつつ、抵抗なく活動に取り組むようになりました。実際にGTECのWritingでも多くの生徒がかなりの分量を書いていましたし、それが今回の結果につながったのではないかと思います。効果を感じる取り組みですので、次年度以降も続けていきたいと思いますし、「各学年の終わりに、どこまでのレベルを求めるか」をもっと逆算型で明確に設定して取り組みをブラッシュアップさせていきたいと思います。

七尾市立中学校におけるGTEC for STUDENTSの結果概要

七尾市内の6校全体のReading・Listening・Writingのスコア分布を、2012年度3年生の夏(7月)・冬(12月)の2回分と、2012年度2年生の冬(12月)の受検分で掲載している。

七尾市立中学校における学習状況×英語力結果(抜粋)