GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

全国各地の先進的なお取り組みや、身近なご指導事例など、生徒の英語力を高めるためのヒントをご提供します。

Vol.107

スモールステップで文章のフォームを学び
クリティカル・エッセイ・ライティングの力を身につける

群馬県立前橋女子高等学校

群馬県立前橋女子高等学校

1920(明治43)年、旧制・前橋市立高等女学校として開校。「賢く、明るく、強く、気高く」を校訓として、深い知性に基づいた認識力と判断力や高い見識と品位を備え、将来、社会のリーダーとして活躍できる人材の育成をめざしている。65分授業や土曜学習(3コマ)の導入、補習授業の充実などで学力向上を図る。2013(平成25)年度から5年間、スーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)の指定を受け、探究活動や英語教育の充実などに取り組んでいる。部活動加入率は9割(1年生)で、2016年には陸上部、卓球部、新体操部、放送部、囲碁部など多くの部活動が全国大会出場を果たした。

基本情報
公立、女子校、普通科
規模
1学年320名
主な進路
国公立大は、東北大5名、筑波大10名、群馬大40名、お茶の水女子大5名、東京大2名、一橋大2名、名古屋大2名、高崎経済大10名、群馬県立女子大3名をはじめ159名(2017年度入試)

取り組みのポイント

  • エッセイ・ライティングに必要な文章のフォーム(意見-理由-例-意見)を徹底的に身につける。
  • スモールステップでエッセイの構造を理解しながら、論理的で整合性のあるライティング技法をマスターする。
  • ライティングを中心としながらスピーキング・リスニング・リーディングも取り入れ4技能をバランスよく伸ばし、ディベート活動へとつなげていく。

取り組みの背景

 県内屈指の進学校である群馬県立前橋女子高校は、2017(平成29)年度に最終年度を迎えるSSHにおいて、身につけさせたい力として、課題探究力や高度な科学知識に加え「英語コミュニケーション力」を掲げ、英文多読による読解力向上や海外研修によるコミュニケーション力の向上などに取り組んできた。また、私立大文系を目指す生徒を対象に学校設定科目「英語研究」を設け、高度で実践的な英語力の育成も図っている。
 生徒の英語力は総じて高く、コミュニケーションに積極的な者も多い。その姿勢を生かしながら、生徒の進路実現に必要な大学入試に対応する力をつけるため、授業では4技能の向上を意識しつつ、バランス良く指導することを目指している。
 また、SSHでは、英語をツールとした情報発信やコミュニケーションの機会を増やすことを課題として挙げている。
 2015年度に、新しいALTとしてカナダ人のKimberly Dumont先生(以下、Kim先生)が赴任し、TTで英語表現Ⅰ・Ⅱのライティング指導に当たるようになってから、生徒の英語力に大きな変化が表れた。GTEC for STUDENTSにおいてライティングが著しい伸びを示したのである。その背景には、スモールステップで英語特有の文章構造の理解・習得を促し、論理的な文章を書けるようにする独自の指導ノウハウがあった。

取り組みの詳細

「トリプルA」で会話をつなぐコツを身につける

 同校は65分授業が基本で、英語表現Ⅰは2週間に3回実施している。そのうち1回が教科担当とKim先生によるTTにあてられている。授業内容はKim先生とJETが事前に打ち合わせをして授業の目標や細かい方法などを決めていく。Kim先生は大学で教育学と英語を専攻しており、活動のアイディアが豊富で、どのレッスンにも4技能やペア活動などが盛り込まれるよう配慮したプランやワークシートを作る。授業は毎回、AAA(トリプルA)と呼ばれるウォーミングアップのためのペアワークで始まる(資料1)。生徒がペアになって、パートナーAが「What were you doing over the weekend?(週末は何をしていましたか?)」などの質問をする。パートナーBは「I played football.(サッカーをしていました)」「I went shopping.(買い物に行きました)」など答え(Answer)、さらに「何を買った」「誰と行った」などプラスアルファの情報を2つほど加えて(Add details)返す。パートナーAは「That’s great」「Really?」とリアクションを返し、さらに「Who did you go with?(誰と行きましたか?)」など、さらに深堀りするような質問をするか(Ask a follow-up question)、あるいは「By the way(ところで)」と話題を変えて会話を進めていく。
 会話は、1回につき2分程度だ。「具体的な情報を加えたり、それに対してリアクションを返したりすることで、スムーズにつながる会話の型を身につけるのがねらい」とKim先生は語る。1年生の授業では毎回冒頭にAAAを2回行い、その都度「detail」「follow-up question」「Reaction」「By the way」など6項目について、それぞれ4段階で評価し、次にAAAを行う際はそこに注意して会話を進め、徐々にスキルアップを図っていく。この評価項目が、そのまま目指す力になっており、これを意識することでスキルアップにつながっていく。
 次のステップがOpinion writing and sharingである。最初にKim先生が「Which is better, cats or dogs?(猫と犬のどちらが良いですか?)」「Which is more important, love or money?(愛とお金とどちらが重要ですか?)」などの質問を全体に投げかけ、生徒は自身の答えとその理由をプリントに書く。この時、生徒は「I think that cats are better than dogs because cat has soft fur(私は犬より猫が良いと思う、なぜなら毛が柔らかいから)」など、「I think that(私は~と思う)…because(なぜなら)」という定型文に当てはめて答える。2トピックで練習した後、4人グループになり各トピックに対する意見と理由を共有する。互いの考えを英語で述べ合うことで、スピーキングとリスニングの力を高めるのがねらいである。

【資料1】 Opinion Sharing ワークシート①

「意見-理由-例-意見」のAREAをマスター

 続いて、本時の柱であるAREA(エリア)に取り組む。AREAはAssertion(意見=Opinion)、Reason(理由)、Example(例)の略だ。英語で意見を述べる際の定型文で、まず意見を述べ、理由とその具体例をあげて「だから~と思う(Therefore~)」とふたたびAssertionを繰り返して文を完結させる。前段で自分の意見とその理由を述べるところまでを練習したが、ここではさらに具体的な例を盛り込んで文章に厚みを加えていくのである。
 まず、例文を読ませてAREAの構成になっていることを理解させる。例文は「Which do you prefer, winter vacation or summer vacation?(あなたは夏休みと冬休みのどちらが好きですか)」という問いに対し、「私は冬より夏が好きです」(A)、「なぜなら暖かいので好きなスポーツができるから」(R)、「たとえば夏はテニスや水泳が楽しめるけど冬に行うと寒い」(E)、「だから冬休みより夏休みが好き」(A)といった内容が英文で書かれている。テニスと水泳のように、複数の例を盛り込むことも大切である。
 ここで生徒がグループになり、ネコとイヌ、お金と愛など、様々なトピックに対して、どんな理由と具体例が考えられるのかを英語で話し合う。「私は愛よりお金が大事。お金があると幸せになれるから。例えばスペインに長期間旅行できる」というように、説得力のある例を挙げられるかが重要になる。「よくあるのは理由が漠然としていること、また理由と例がかみあっていないものなどです。ここで理由と例の違いを徹底的に学ぶことが、後々エッセイ・ライティングなど長いパラグラフを書く際に役立ちます」(Kim先生)。
 次に生徒は3つの例文を読み、どこがAか、どこがRかを探し、文章を区切っていく練習をする。目印になるのはbecauseやFor exampleなどのつなぎの言葉(Linking words)である。ただし3つ目の例文には、理由とかみ合っていない具体例がわざと入れてある。どこがおかしいのか、どう直したらいいのかをグループまたはペアで話し合う。ここでは、「大きい街と小さな町のどちらに住みたいか」という質問に対して小さい町をあげ、理由として「お金がかからないから」と述べているにもかかわらず、具体例には「大きな街はうるさい」「小さな町は静か」を挙げられており整合性が取れていない。ここに気づいて、適正な表現に修正できるかどうかがポイントとなる。

Assertionを共有しスピーキング・リスニング力を鍛える

 2コマ目の授業では、実際にAREAのパラグラフを書く(資料2)。トピック1は「Which is better : doing a job that you enjoy or making a lot of money?(好きな仕事とお金がたくさんもらえる仕事のどちらがいいか?)」を、AREAの形式に則り、becauseやThereforeなどのつなぎの言葉を使って書く。また、パラグラフの最初に必ずインデントすること、パラグラフ内で改行せずラインの最後まで詰めて書くことなど、英文原稿作成上の注意点も意識させる。
 トピック1は、あらかじめプリントにI think that、because、For example、Thereforeというつなぎ言葉が書かれており、そこに文章を当てはめていく。トピック2では、つなぎの言葉も含めて生徒自身がパラグラフのすべてを書く。テーマは様々だが直近の授業では「イケメンだけど冷たい男子と、優しいけどルックスはいまいちの男子のどちらがいいか」を聞いた。いかに高校生に身近なトピックを探せるかも大切なポイントである。
 次はスピーキングとリスニングの練習である。トピック2で書いた意見を4人グループで共有する。ただし互いにプリントは見せず、Assertion、Reason、Exampleのそれぞれについて何を語っているのか聞き取って短いメモを取る。
 こうして個人の意見を共有した後、グループとしての意見をまとめてプレゼンテーションを行う。まず、プレゼン原稿の見本を読んでフォームを学び、そこに自分たちの意見を当てはめていくのである。たとえば、愛とお金のどちらを選ぶかというテーマなら、グループの誰が愛を選び、誰がお金を選んだのかを紹介し、それぞれの意見を、具体例を挙げながら述べ、自分たちのグループではお金を選んだ人が多かったなどと結論を述べるのが基本的なフォームである。生徒たちはこの基本形に沿って、グループの意見を穴埋めする形でサマリーを作り、クラス全体に向けてプレゼンを行う。

【資料2】 Opinion Sharing ワークシート②

AREAの形式を使ってエッセイ・ライティングに挑戦

 以上の流れでAREAの書き方を習得した後、いよいよエッセイ・ライティング(Opinion Writing)に取り組む(資料3)。
 前回の復習として、「生徒は制服を着るべきか」などのトピックでAREAの書き方を振り返ったうえで、「ハンバーガー・エッセイ」と呼ばれるライティング技法を学ぶ。「Introduction(導入)→AREA1→AREA2→Conclusion(結論)」という流れで意見を述べるエッセイの基本形である。導入と結論がほぼ同じ内容になることから、導入・結論をパン、AREAを間に入る具に見立ててこのように呼んでいる。
 具体的な形式は、以下の通りだ。まず、導入として自分の意見と理由を2つ挙げる。次に、導入で挙げた第1の理由をAREA1で、第2の理由をAREA2でそれぞれ具体例を挙げて説明し、最後に導入で挙げた理由を結論として述べる。ただし、結論で理由を挙げる際は、1と2を入れ替えて、理由2→理由1の順で述べるのがルールである。井上直子先生は次のように語る。「これまでのALTの先生も、同じように導入→本論→結論というエッセイの基本は教えていました。Kim先生の指導の良いところは、本論にあたるAREAの部分をしっかりと身につけさせるところです。この基本を徹底して身につけさせているので、生徒は構成のしっかりとした文章が書けるようになりました」。

【資料3】 Opinion Writing ワークシート①

【資料4】 Opinion Writing ワークシート②

「5つのワーク」でエッセイを読み、構成する力を伸ばす

 一通り書き方を学んだ後はリーディングである。2つのエッセイを読んで、それぞれ次の5つのワークを行う。①行頭のインデントをチェック、②一つのパラグラフをA・R・E・Aで分割する。③つなぎの言葉を丸で囲む、④理由と導入・結論にアンダーラインを引く、⑤わからない単語を調べる。
 こうしてエッセイを読む目を養ったうえで、いよいよエッセイ・ライティングに取り組む。まず「宿題は毎日与えられるべき」「バレンタインデーは廃止されるべき」というトピックについて、個人で意見と理由、例を考える。次にそれを4人グループで共有し、話し合いの内容をもとに自分なりの結論と理由を考えてエッセイを仕上げる。さらに、それをペアワークで読み合い、インデントやAREAの構成、つなぎの言葉などが正しく使われているかをお互いにチェックする。
 前回までの授業でAREAの書き方を身につけているため、プリントの最後に取り組むエッセイは、ほとんどの生徒がスペースの半分以上を埋めるほど書くことができる。井上先生は、次のように語る。「たくさん書けるようになったので、受験に向けた添削指導では、入試問題の指定語数である80語や100語に合わせるために、むしろ削ることの方が多い。形式が整ってきたので、内容にフォーカスした添削指導もできるようになりました」。

さらに深みのあるエッセイを書くために

 以上が、1年生の2学期までのKim先生によるエッセイ・ライティングの流れである。
 改めて特徴を整理すると、一つはスモールステップでエッセイ・ライティングの基礎が学べることだ。特に展開部にあたるAREAについて具体的に書く練習を重ねることで、内容が濃く論理的整合性の高い文章が書けるようになる。また、ライティングを中心にしながら、スピーキングやリーディング、リスニングなど4技能がバランスよく盛り込まれている点にも工夫がみられる。
 1年生ではこの後、さらに厚みや深みのある文章を書くためにブック・リポートを行う。同校はSSHの一環として多読を重視しており、その中から印象深い1冊を選んで紹介し、推薦する理由、しない理由をAREAの技法を使って書く。クラス内で発表を行い、優秀者を2名選んで、全校のSSH公開発表会でポスターセッションの発表を行う。3学期には読み手を引き付けるためのフック(書き出し)の技法などについても学んでいく。
 2年生では、1年次に行ったAREAでのエッセイ・ライティングをもとに、自分の主張に説得力を持たせる理由の選び方から学んでいく。①個人的な感想や好みよりも、事実に基づいた意見の方がより説得力がある、②どれだけの影響力のある事実か、③重要度のピラミッドのどこに相当するか(下の方が、より重要)というように、根拠の中身を精査する目を養う。この作業により、よりクリティカルに意見を述べたりエッセイを書いたりできるように指導していく。
「1年生では、形式は定着してきたのですが、理由と例の部分が弱く、そのため説得力が弱いエッセイも見られました。そこをなんとかしたいと考え、Kim先生と話し合って、改善策を考えました。根拠を精査する指針があれば、自分の意見を客観的に見ることができます。このことが、ひいては大学入試で求められるレベルの意見とその根拠を述べる力にもつながっていくと考えています。」と春山貴子先生は言う。

ディベートへの展開

 2年生では、さらに、AREAの構成を生かしたディベート指導に入っていく。具体的には、与えられたテーマに対してペアでbrainstormを行い、出てきたアイディアを先ほどの手順で精査し、2つ理由を選ばせる。その理由を使ってConstructive SpeechをAREAの形にのっとって考えさせるが、このときに、全てを書くのではなく、メモ程度にとどめるように指示をする。「読む」のではなく「その場で話す」に近づけていくためである。その後、相手に反論するためのrebuttalのフォーマットを学び、Rebuttal Tennisというゲーム形式で、反論することに慣れていく。最終的には、生徒はAttack SpeechやDefense Speechの形も学び、相手の主張を聞き取って、同様にAREAの形を使ってAttack SpeechやDefense Speechを行う。 
 このように、AREAを使うことと理由を精査する力を養うことで、ライティングからディベートへ、無理なく発展させていくことができる。

【資料5】 English Debate ワークシート①

【資料6】 English Debate ワークシート②

取り組みの成果と今後に向けて

 生徒の英語力を客観的に測るツールとして用いているのが、GTEC for STUDENTS だ。英語の総合的なスキルの定着度合いを見取れるように、1・2年生で12月に実施している。一連の学習の成果は、GTEC for STUDENTSのライティングの伸びとして表れている。グレード5の生徒は例年60人程度だったが、Kim先生の赴任した2015年から急増し、2016年には145人まで増えたのである。エッセイ・ライティングの土台ができたことで、生徒が書く英文エッセイの質が向上し、入試に向けた添削指導もやりやすくなった。
 大学入試の小論文などでは、より高いレベルのオピニオンや専門知識も踏まえた文章展開が求められる。「AREAを土台としたエッセイ・ライティングのスキルを、3年生以降の指導につなげ、発展させていけるかがカギになります。そのためには、まず生徒自身が意識を高くもち、しっかりとアンテナを張って、書く『ネタ』を持たなければなりません。そのために、社会的視野を広げ、情報収集し、考える力を身につけさせる必要があります。教師自身もライティング指導のスキルを高め、豊かな表現や高度な知識を生かしたライティングができるような力をつけさせていきたいと考えています」と春山先生は話してくれた。

左から春山先生、Kim先生、井上先生

【資料7】Book Report (1年生(当時)クラス代表のもの、『H28年度SSH研究論文集』より)

【資料8】「共学と別学ではどちらがよいか」のエッセイ(2年生(当時))