継続的に英語力の伸びを測定できる
スコア型英語4技能検定

02 県庁舎(新緑)08

Vol.96Case

県全体で生徒の海外進学の夢を叶える
熊本県の取り組み

熊本県(総務部総務私学局私学振興課)

熊本県(総務部総務私学局私学振興課)

お話を伺った齊藤裕則参事

 

取り組みのポイント

  • 公立・私立を問わず、県内全ての中高生向けに「海外進学支援プログラム」を設置し、参加を呼びかける
  • WEB、対面など多様な手段を講じ、生徒の海外進学力や海外進学への意欲を高める
  • 教育委員会と連携し、海外進学指導のノウハウを現場の教師と共有する

取り組みの背景

 熊本県では、蒲島郁夫知事の下、2010年度より「熊本時習館構想」の事業を始めた。これは、学校の垣根を越え、県内の私立高校の生徒が切磋琢磨しながら夢を実現できる環境を整えようとする取り組みで、名称は、身分の別を越えた有志の学問の場となったかつての熊本藩の藩校、時習館にちなむ。
 2012年度には、熊本の高校生の海外進学を支援しようと、海外難関大進学者への進学給付金制度や留学する高校生への支援金制度などを設けたが、生徒の英語力が海外進学に必要なレベルに対して絶対的に不足しているといった課題が残った。課題の解決に向けては、まず生徒の英語力を高めること。次に、海外進学を自分の進路選択の一つだと捉えてもらうこと。そして、生徒の意識を海外にも向けるような進路指導が高校で行われるようにすることが必要という結論に至った。
 そこで2013年度、生徒の英語力と海外への進路意識を高めることを目的に「熊本時習館海外チャレンジ塾(以下、海外チャレンジ塾)」を発足させ(資料1)、公立・私立を問わず、県内全ての中学生・高校生に参加を呼びかけた。また、学校での海外進学指導力を向上させるため、高校の教師を対象とした研修を実現することとした。

【資料1】海外チャレンジ推進事業イメージ

取り組みの詳細

自宅で受講できるオンライン講座を活用し、地理的制約を超えて塾生の英語力を伸ばす

 海外チャレンジ塾では、海外の大学への進学を目指す生徒に向けた「海外進学コース」と、国内の大学に進学後の留学を望んでいたり、将来、海外で活躍したいと考えていたりする生徒に向けた「グローバル人材育成コース」の2つのコースをつくり、各コースで育成する力と目標を掲げている(資料2)。生徒の募集は、毎年2月末から4月末頃にかけて各高校やホームページ掲載を通して行い、評定平均3.5以上の生徒が希望のコースを選択し、保護者と担任の承諾を得てから申し込む。
 両コースともに、英語力を伸ばす活動に力を入れている。同県総務部総務私学局私学振興課の齊藤裕則参事は、「どちらのコースにも、海外への進学・留学に強い関心を抱く生徒が集まります。志を同じくする者が周りに大勢いれば、学習に対するモチベーションも高まるでしょう」と語る。
 海外進学コースでは、ネイティブスピーカーの講師によるオールイングリッシュのTOEFL®対策オンライン講座を週1回、平日の放課後に行う。録画ではなくライブ配信であるため、講師との質疑応答もできる。熊本県から海外進学協力校に指定されている熊本市内の私立高校に生徒が集まり、1人に1台準備されるパソコンで受講するのが基本だが、熊本市外の学生などそこまでの移動が大変な生徒は自宅のパソコンで受講する。「受講している他の塾生1人ひとりの顔がパソコンの画面に映り、会話を交わすこともできるので、自宅での受講にも臨場感が生まれます。塾生が互いに刺激し合うこともできるでしょう」(齊藤参事)。
 受講にあたっては、塾生の英語力に応じた講義ができるように、毎年開講式時の英語レベルチェックテストの成績によってクラスを編成している。なお、塾生は受講後の成果確認として、年度末にも同様のレベルチェックテストを受検する。
 一方、両コースで年5回、休日に実施するのが、「TOEFL®/英文エッセイ対策講座」だ。英語力によって2クラス編成としており、東京から招いた講師がTOEFL®対策はオールイングリッシュ、英文エッセイ対策は日本語で指導する。海外進学協力校の教室で行われる講義であるため、塾生同士が直接顔を合わせて交流する場ともなる。「海外に対する似たような思いを抱く者が一堂に会する貴重な機会ですから、熊本市から距離のある地域に住んでいる塾生でも参加できるように、休日を選びました」(齊藤参事)。
 また、グローバル人材育成コースの塾生のうち希望者は、夏休み中に2泊3日で行われる立命館アジア太平洋大学(APU)の英語合宿に参加する。「合宿には海外からの留学生が多く参加しています。留学生たちと触れ合うことで、英語での会話力を磨く機会になるほか、文化の違いも身をもって感じられるでしょう。グローバル化社会で求められる多様な価値観との共生とはどういうことか、考えを深めるきっかけになると考えました」(齊藤参事)。

【資料2】各コースで育成する力と目標

海外の大学に進学した学生の講演を通じ、塾生の学習意欲のさらなる向上を狙う

 英語の講座以外の活動にも工夫を凝らし、ほとんどの活動に海外進学・グローバル人材育成どちらのコースの塾生も参加できる。2015年度の主な取り組みを見てみよう(資料3)。

■TOEFL®受験セミナー
 TOEFL®開発団体である米国ETSの公認トレーナーがTOEFL試験のスタイル、解き方などを日本語で説明するセミナーで、リスニング・リーディングについては6月、スピーキング・ライティングについては9月に行う。「4技能に対応した英語力を高めることに重点を置く対策講座と異なり、このセミナーではTOEFL®の成績を上げるスキルを身につけることを重視しています」(齊藤参事)。
■学年別説明会
 海外進学に関する情報を適切なタイミングで提供し、その後の進路選択に役立ててもらう目的で、各学年を対象に学年別説明会を行う。高1、高2生は年2回、高3生は年1回実施を予定している(資料4)。高3生は各自の進路が明確になっているため、説明会での一律の情報発信ではなく、カウンセリングや電話・メールでの個別相談を中心に対応している。
■グローバルセミナー
 8月に行うセミナーで、次の2部から成る。第1部は、アメリカ・ハーバード大などの海外の難関大に進学した日本人学生による講演だ。海外の大学を選んだ理由や授業内容、大学生活、さらには進学にいくらお金がかかるか、海外に進学したいと打ち明けた時の保護者の反応というように、海外進学に関する生の情報について多面的に語ってもらう。「国内の大学に進学してから留学したいと思っているグローバル人材育成コースの塾生にも参考になるでしょう。海外進学コースの塾生にとっては、自分の近い将来を具体的にイメージする好機になるはずです。夢の実現に向け、今以上に学習へのモチベーションを高めてくれるだろうと期待しています」(齊藤参事)
 第2部は元エール大学在籍の日本人講師による模擬授業で、海外進学コースの塾生が出席する。「海外の大学の講義とはどのようなものか、自分に合っていそうかどうかを考える機会になればと企画しました」(齊藤参事)。
 第1部・第2部ともに、高校の教師にも参観してほしいと呼びかけている。「海外の大学で行われている学問の一端がうかがえるだけでなく、海外進学に意欲的な塾生の様子を間近に見ることもできるでしょう。先生方の進路意識を国内から海外に広げることにもつながると考えています」(齋藤参事)。
■海外進学カウンセリング
 海外進学について塾生が抱いている悩みや不安を職員が聞き、改善するための方法をアドバイスしたり、一緒に考えたりする活動。「TOEFL®/英文エッセイ対策講座」の後などに随時行う。

【資料3】平成27年度 海外チャレンジ塾スケジュール

【資料4】学年別説明会の概要

海外進学の指導ノウハウを現場教師と共有する

 2015年度は、熊本県教育委員会と連携し、海外進学を視野に入れた進路指導を教師に普及させることにも注力する。例えば、教職員研修会を7月〜9月にかけて3回集中的に行う。1回目(7月)は、グローバル化社会とは何か、今どこまで進み今後どうなっていくと考えられるかをテーマに、海外進学の制度概要とともに説明する。2回目(8月)は前述のグローバルセミナーの後に行い、同セミナーで模擬授業を行った講師が海外進学のための指導法のポイントなどについて解説する。3回目(9月)は、TOEFL®の成績を上げる効果的な指導法を、TOEFL®公認トレーナーがレクチャーする。
 これまでも、海外チャレンジ塾発足当初から教師を対象にした説明会などを催してきたが、出席者数が少ないことが課題だった。「多くの先生方は、海外の大学を生徒の現実的な進路とはまだ捉えておられないと感じます。必要な手続きなどについてもよく御存知ないでしょうから、海外進学を望む生徒がいても、適切にアドバイスするのは難しいと思います。しかし、生徒は進路に迷ったら学校の先生に相談するしかありません。海外チャレンジ塾はこれまでに多くの塾生の悩みに耳を傾け、相談に応じてきました。その情報やノウハウは先生方と共有すべきだと以前から考えていましたが、良い方法が思い浮かびませんでした」(齊藤参事)。
 そうした状況は、2015年度に大きく変わった。同県教育委員会が、同県立済々黌高校がスーパーグローバルハイスクール(SGH)の取り組みを本格化させたのを機に、同校の取り組みを他校でも参考にできるようにしようと、各校の英語科の教師1人を「海外進学アドバイザー」に任命する方針を打ち出した。「『海外進学アドバイザー』の任命を機に、先生方に海外進学指導の知識を広く知って頂くため、私たちは教育委員会に一緒に取り組みませんかと提案したのです」(齊藤参事)。
 3回の教職員研修会には昨年度を上回る出席者が見込まれる。「まずは出席してもらい、段階的に先生方の進路指導観を変えてもらいたいと思います。海外の大学が生徒の進路の選択肢になり得ることに多くの先生方に気づいてほしいです。そして、その先生方が学校の別を越えて連携するようになればと期待しています」(齊藤参事)。

取り組みの成果と今後に向けて

 海外チャレンジ塾の取り組みによって、海外進学に対する熊本県の高校生の関心が高まり、海外チャレンジ塾から2014年は5人、2015年は3人の塾生を海外の大学に送り出した。「海外進学が決まった高校3年生たちは、海外チャレンジ塾の修了式で今後の抱負を語り、後輩にエールも送りました。多くの後輩が『自分も先輩のように夢を叶えたい!』と感じたはずですから、2015年度の高校3年生もきっと良い結果を残してくれると信じています。3年生の雄姿に1・2年生が触発され、今度は自分が夢に挑戦し、夢を叶えようと頑張るというように、良い循環が生まれていると感じます。これをもっともっと大きなスパイラルにしていけるように、今後も微力を尽くしたいと考えています」(齊藤参事)。

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